内藤コレクション展Ⅲ「写本彩飾の精華 天に捧ぐ歌、神の理」

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美術展・写真展
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上野の国立西洋美術館で「内藤コレクション展Ⅲ「写本彩飾の精華 天に捧ぐ歌、神の理」」を観てきました。

展示内容

医大の教授でもある内藤裕史氏が自らのコレクションを寄贈した西洋写本を紹介・展示する企画展の第三弾。
前回、二回目の様子は下記の記事を見てください。

なお、国立西洋美術館の常設展示作品と同様、本展でも写真撮影OK(フラッシュ、三脚は禁止)です(一部撮影NG作品があるので、その場の指示を確認願います)。

三回目のこの企画展ですが、公式サイトの説明によると、

今回の出品作の核のひとつとなるのは、聖歌集に由来するリーフです。天に捧げる歌を記した一連のリーフは、グループで参照されたために大型の判型をもつものも多く、その大きく華やかな装飾には、ときに小型絵画に匹敵する見応えがあります。もうひとつの核となるのは、教会法令集由来のリーフです。教会法令集とは、教父文書、公会議決議、教皇令を中心に、カトリック教会の組織運営や信徒たちの信仰、生活に関して定めた法文を所収した書物のことです。それらのリーフにおいては、とりわけ、余白にびっしりと記された注釈に圧倒されるでしょう。濃密な文字の列からは、神の理を明らかにしようとした学者たちの熱意が彷彿されます。

内藤コレクション展Ⅲ「写本彩飾の精華 天に捧ぐ歌、神の理」|国立西洋美術館

とのこと。

これら装飾写本は、元々は一冊の本として製本されていた。が、後にその芸術的価値もあり、1ページずつ切り取られて“絵画”の様な形で現在に残っている。その1ページだけでも、壮麗さがよくわかる。
こちらは聖歌集の一枚。大きな頭文字に絵を描いてある。このページでは“Q”の文字に聖パウロが、剣と書物をもった姿で描かれてある。

“A”の装飾イニシャルが描かれた聖歌集の一枚。神に自分の魂を捧げる姿が描かれている。

典礼用詩篇集の一枚。この装飾イニシャルは“B”(ここまでデフォルメされると読めない?)。楽器を奏でるダビデ王(下段)と、それを見守る神(上段)が描かれている。その装飾イニシャルから連なって、余白を埋める色鮮やかな花の装飾も美しい。

聖務日課書の一枚。縦にページを貫く植物の装飾が目を惹く。

法令集の1ページ。絵による装飾よりも、段組(?)によるデザインが際立っている。本文の文字も小さいが、周りにはさらに小さな文字で注釈文があちらこちらに書かれている。しかも、それらも個々に絵のようなデザインをした段組にまとめられている。

「貴族身分証明書」。爵位のない貴族が身分を示すために王によって発行された。その権威を示すため、豪華に装飾されたものとなっている。

感想

「聖歌集」は確かに音符のような記号が、五線譜のようなライン上に描かれている。正確には、ラインは四本だが。音符は四角“■”で表されているようで、並んでいる間隔が広かったり、狭かったりするので、これがリズムを表しているのだろうか。装飾イニシャルが邪魔して、歌詞が分かりにくそう。。。

そして、余白を埋め尽くす装飾。これが手描きの写本なのだから、これに注ぐパワーは相当なもの。神への敬意はもちろんのこと、教会の権威がいかにすごいものかが分かる。

コーラス隊が実際にこの写本を見ながら聖歌を歌ったようだが、それこそコピーを全員がもつ訳にはいかないから、みんなでこの一冊を覗き込むようにして歌ったのだろうか。大判で、文字もそこそこ大きくなっているとは言え、大変そう。それでいて、汚したり傷つけたりしたら怒られそうだし、どんな感じで使われていたのか、その様子を見てみたいものだ。

それにしても独特な書体。ラテン語だから文字はアルファベットのはずなのだが、サッパリ読めない。部分的には“no”だの“le”だのは分かるものの、“m”やら“n”やら”i”などが繋がっていると、どこまでが一文字なのかも分からなくなる。慣れると読めるようになるのだろうか。

もちろん、中身が読めればもっと面白いのだろうが、これだけ装飾豊かなので観ているだけでも楽しめる。絵本のようなものだろうか。装飾イニシャルはもちろん、いわゆる挿絵の“ミニアチュール”を眺めているだけでも観賞体験としては充分だろう。
まあ、その挿絵も宗教的な逸話だったり、聖人達を描いていたりするので、何が描かれているのかを理解することが求められるのだろうけど、こちらもまた難しいし、眺めるだけでよしよし。

三回に分けての企画展。膨大なコレクションに改めて驚かされる。内藤氏の著書によると、コレクションの一部は家に飾っていたそうだが、大豪邸でもないと全部は飾れないだろう。もちろん、そんな財力もなければこれだけのものを買い集めることは無理だろうが、それだけではない、コレクターとしての熱量もすごい。
だからこそ、散逸させることなく国立西洋美術館に寄贈して“コレクション”としてまとめておきたいと思ったのだろうか。我々にとっては、お蔭でこうやって日本にいながら西洋の写本をじっくりと眺め、写真に撮ることもできるのだからありがたいことだ。
内藤コレクション展は今回で終わりのようだが、今後はどのように展示されるのだろうか。これだけ膨大なコレクションだと、常設展示は難しそう。所蔵作品検索|国立西洋美術館ではまだ出てこない(キーワード:内藤コレクション で検索しても出てこなかった)けど、そのうちに内藤コレクションも検索対象になる(デジタルデータになる)のかな。まずはそれを期待しましょう。

ちなみに、独立行政法人国立美術館・所蔵作品検索では東京国立近代美術館、京都国立近代美術館、国立西洋美術館、国立国際美術館の作品がまとまって検索できるようだけど、国立博物館や地方自治体の美術館・博物館、そしてさらには私立美術館もまとめて欲しいな。デジタル庁ができたらこんなこともしてほしいものです。
それとも、図書館の検索をまとめたサービスを提供している株式会社カーリルのような民間の力に頼った方が早いのかな。

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