「ミネアポリス美術館 日本絵画の名品」展で室町時代以降の絵画史を概観

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ミネアポリス美術館 日本絵画の名品展 美術展・写真展
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サントリー美術館で「ミネアポリス美術館 日本絵画の名品展」を観てきました。

この企画展では写真撮影OKです。ただし、三脚・フラッシュNGなどの注意事項には従ってください。

ミネアポリス美術館 日本絵画の名品展

展示内容

公式サイトの説明によると

本展は、Mia(ミネアポリス美術館)の日本美術コレクションの中から、中世から近代にいたる日本絵画の変遷を選りすぐりの優品でご紹介します。水墨画・狩野派・やまと絵・琳派・浮世絵・文人画(南画)・奇想派・近代絵画というように、江戸絵画を中心に日本絵画史の主要ジャンルをほぼ網羅するラインナップで、初の里帰り作品を含む貴重な機会です。展示室を訪れれば、きっとイチオシの絵師〈推し絵師〉に出会えるでしょう。

サントリー美術館 開館60周年記念展 ミネアポリス美術館 日本絵画の名品 サントリー美術館

とのこと。2,500点を超える日本絵画のコレクションから、今回は展示替えも含めて90点余りが出展されています。

展示構成は以下の通り。

  • 第1章 水墨画
  • 第2章 狩野派の時代
  • 第3章 やまと絵 景物画と物語絵
  • 第4章 琳派
  • 第5章 浮世絵
  • 第6章 日本の文人画<南画>
  • 第7章 画壇の革新者たち
  • 第8章 幕末から近代へ

室町時代、足利将軍家によって水墨画は庇護され、多数の作品がそのコレクションに加えられていった。そんな時代の水墨画は、文人墨客だけではなく、武士によって描かれたものも少なくない。

そんな水墨画はアメリカでも愛され、ミネアポリス美術館でも多くの作品を収集している。
雪村周継による花鳥図屛風。雪村も元は武士の家に生まれたが、出家して僧侶となる。

ミネアポリス美術館 日本絵画の名品展

竜虎図屏風の作者である山田道安もまた武士である。彼は大和国の山田城の城主でもあった“現役”の武士でもあり、剛毅な作風の水墨画を残している。そんな武人の描く竜虎は迫力満点だ。

ミネアポリス美術館 日本絵画の名品展

狩野派は、室町時代から江戸時代末期まで面々と続く歴史を持った日本絵画史上最大の画派だ。時の権力者の庇護を受けながら歴代の画家たちが作品を残している。
狩野山楽は特に豊臣秀吉に使えた画家で、徳川の時代になっても京都に残ったため、京狩野と言われる一派に属していた。こちらはその狩野山楽の作と伝えられる襖絵の一部。会場では十六面すべてが見られる。

ミネアポリス美術館 日本絵画の名品展

やまと絵は、中国様式の唐絵に対して、日本的なモチーフを主題とした画風に対して名づけられたもの。濃厚な彩色による装飾性がやまと絵の特徴とされる。

こちらは作者不詳の武蔵野図屛風。江戸時代、武蔵野は移ろう四季を感じられるスポットとして人気だったようだ。

ミネアポリス美術館 日本絵画の名品展

俵屋宗達に始まる琳派は、直接の弟子だけではなく、先人にインスパイアされた後輩がその画風を継いでいくという、狩野派とはまた異なった流れの画派だ。

鈴木基一の三夕図は、新古今和歌集に収蔵された和歌をモチーフにした作品群。

ミネアポリス美術館 日本絵画の名品展

浮世絵版画は江戸時代に流行した美人画や風景画のこと。

ミネアポリス美術館 日本絵画の名品展

葛飾北斎による富嶽三十六景の一枚。説明不要の人気な一枚だろうか。

ミネアポリス美術館 日本絵画の名品展

中には、三畠上龍の舞妓覗き見図のように、ちょっと変わったテーマの作品もある。子ども(?)が指で目を見開いて舞子の姿を凝視しているという対幅の作品群。何を言いたいのか全くもって不明ながら、グロテスクでもある子どもの表情は、一度見たら忘れられなくなる。

ミネアポリス美術館 日本絵画の名品展

南画と呼ばれる文人画は、明・清代の中国の絵画に影響を受けた画風。池大雅や与謝蕪村らによって確立されていった。
与謝蕪村の虎渓三笑図は、山に籠もって俗世との縁を切っていた僧侶が、訪ねてきた友人たちを送る際に話に夢中になり、ついつい(俗世との)境界線である橋を渡ってしまい、三人して笑ったという故事にちなんだ一枚。中国における“文人”に対する憧れのようなものを南画の作者たちは持っていたのだ。

ミネアポリス美術館 日本絵画の名品展

江戸時代後期には画壇の革新者たちとも呼べる画家たちが登場する。伊藤若冲もその一人。彼らは既存の流派や様式に囚われることなく、独自の画風を展開していった。

伊藤若冲の鶏図押絵貼屛風は、庭に鶏を放してその様子を写生したと言われる六曲一双の屏風図。

ミネアポリス美術館 日本絵画の名品展

幕末から近大へと移ると、さらに自由な画風の作品が生まれてくる。
こちらは佐竹永海の風神雷神図。琳派の画家たちが好んで描いたテーマだが、この作品では風神の持つ袋(風を起こす道具)は萎んでしまい、雷神は蟹に脚を挟まれて太鼓(雷を起こす道具)も壊れてしまっている。いわゆるパロディ作品だ。こんな遊び心に富んだ作品も生まれてきている。

ミネアポリス美術館 日本絵画の名品展

これは青木年雄の鍾馗鬼共之図。明治期に渡米し、現地で活躍した画家で、残念ながら日本ではほとんど知られていない。が、最近になって再評価される気配もあり、注目すべき画家の一人だ。

ミネアポリス美術館 日本絵画の名品展

感想

海外にこれだけ多くの作品が“流出”してしまったことを嘆くのか、それとも、ここまで多くの作品を収集・保存してくれていたことに感謝すべきか、人によって思うところは色々あるでしょう。でも、とにかくこうやって日本絵画史における数百年分の作品群をまとまって・体系立てて観ることができるのだから、私はありがたいことだと思います。

室町時代後期というと、もう戦乱の世の中。そんな中でも、そしてその渦中の人であった武士たちが水墨画を多く描いていたというのに驚き。しかも上手い!自分自身の生死はもちろん、家族や家来・領民たちの命を守るために闘いの場に趨いていった彼らも、こんな形で精神世界に生きていたんだと思うと、ただの風景画もその奥に秘められた意味を考えてしまう。
たぶん、学校の日本史でも多少は習ったかと思うのだが、武士たちの争いと文化史とはなんとなく乖離していて、同時代の、しかも同一人物たちによるものだという意識が余りなかった。茶道・茶の湯も、裏の政治の場という印象が強かったかな。今回の展示で武人たちが描いた屏風図などを観て、だいぶ考えが改まった気がする。それだけでも得るものは大きかったな。

と言いつつ、最も記憶に残ったのは、いや、網膜に焼き付いてしまったのは 三畠上龍の描いた目玉の子ども。あれはなんなのだろうか。覗かれている舞子さんの表情が余り読み取れないことも相まって、何を意味しているのかサッパリ分からない。伊藤若冲や曾我蕭白の作品も特異だとは思うけど、この一枚には適わないんじゃないだろうか。異質のメンタリティーと呼べましょう。ブリューゲルの諺の世界のように、同時代人には分かる共通概念があるのだろうか。気になってしょうがない。

また、 青木年雄のように、アメリカでは有名という日本画家の存在も知れ、これからの展開がちょっと楽しみだ。日本でも再評価され、知る人ぞ知る感じになるのだろうか。

年間フリーパスも購入したことだし、展示替えがあったらまた観に行きたいと思っています。今回も楽しい企画展でした。

美術展情報

ミネアポリス美術館 日本絵画の名品展
  • 参考書

コメント

  1. 中野潤子 より:

    ご紹介を見るだけでも幸せと思います。この目で見たいのは山々ですが。UPしていただき感謝です。

    • bunjin より:

      パンデミックもまたまた厳しい状況になってきましたからねぇ。ワクチンが行き渡るまではこの調子が続いてしまうのでしょう。