「写本 いとも優雅なる中世の小宇宙」展

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「写本 いとも優雅なる中世の小宇宙」展 美術展・写真展
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上野公園にある国立西洋美術館内藤コレクション「写本 — いとも優雅なる中世の小宇宙」展を観てきました。
この企画展では一部作品を除いて写真撮影OKです。ただし、会場に掲載されている注意事項に従ってください。

展示内容

公式サイトの説明によると

印刷技術のなかった中世ヨーロッパにおいて、写本は人々の信仰を支え、知の伝達を担う主要な媒体でした。羊や子牛などの動物の皮を薄く加工して作った紙に人の手でテキストを筆写し、膨大な時間と労力をかけて制作される写本は、ときに非常な贅沢品となりました。またなかには、華やかな彩飾が施され、一級の美術作品へと昇華を遂げている例もしばしば見られます。

本展は、内藤コレクションを中心に、国内の大学図書館のご所蔵品若干数や、内藤氏がいまでも手元に残した1点を加えた約150点より構成され、聖書や詩編集、時祷書、聖歌集など中世に広く普及した写本の役割や装飾の特徴を見ていきます。書物の機能と結びつき、文字と絵が一体となった彩飾芸術の美、「中世の小宇宙」をご堪能いただければ幸いです。

内藤コレクション 写本 — いとも優雅なる中世の小宇宙|国立西洋美術館

とのこと。

これまでに何度か内藤コレクションの企画展があり、私もその度に観に行っている。過去の話は以下の記事を参照してほしい。

これまでは「版画素描展示室」という小さなスペースでの展示だったが、今回はメイン展示場(?)を使った大々的な企画展だ。約150点が展示されている。

展示構成は以下の通り。

  • Ⅰ 聖書
  • Ⅱ 詩編集
  • Ⅲ 聖務日課のための写本
  • Ⅳ ミサのための写本
  • Ⅴ 聖職者たちが用いたその他の写本
  • Ⅵ 時祷書
  • Ⅶ 暦
  • Ⅷ 教会法令集・宣誓の書
  • Ⅸ 世俗写本

「写本」とは言うものの、その美しさから一ページずつバラバラにされ(「零葉」と呼ばれている)、流通しているものがほとんど。その是非はともかく、書物のままの形で展示するよりは一枚ずつじっくりと観られるのは確か。
十四世紀・十五世紀はまだ印刷技術がなく、書物は手書きで複製されていた。紙もほとんどなく、羊皮紙(子牛・子羊の皮)や獣皮紙(羊・山羊・牛の皮)が使用され、とても高価であった。そのため、修道院で用いられる聖書などがそのほとんどであった。それら写本は文字を書き込むだけではなく、細密画や模様、彩飾などで飾られたのだ。

「セント・オールバンズ聖書」では文章冒頭の文字が装飾されていたり、植物の紋様のようなデコレーションが施されている。

「写本 いとも優雅なる中世の小宇宙」展

写本は分業制で作られることがほとんど。文字を写し書きする写字、彩色を施す作業など、それぞれが写字生(写字を修行の一環として行う修道士)などによって行われていた。
この「ズヴォレ聖書」は十数年の歳月を費やして写されたと伝わる。

「写本 いとも優雅なる中世の小宇宙」展

ミサで歌われる聖歌を集めた聖歌集も作られている。今で言う楽譜だが、これらも彩飾が施され、歌詞(?)も頭文字が細密画によって表されているものも多い。

「写本 いとも優雅なる中世の小宇宙」展

そんな美しい写本。単眼鏡かルーペがないと細部が分からないほどの細密な装飾が施されているゆえに、どこを切り取ってもそれなりの美術的価値がある。そして、文字通りに切り取られた断片として伝わっているものも少なくない。
日本でも昔の能書家の筆跡を手紙などから切り抜く「切継(きりつぎ)」があるが、あれと似たような感覚なのだろう。

「写本 いとも優雅なる中世の小宇宙」展

十六世紀になると印刷技術も取り入れられるようになる。凸版で下書きを印刷し、その後に手作業で彩飾が為された。この時代でも獣皮紙が使われている。

「写本 いとも優雅なる中世の小宇宙」展

それまでは修道院の中で修道士たちによって行われていた写本作成だが、印刷技術の普及により、民間でも商売として行うものが出てきた。
そうなると装飾も世俗的なモチーフのデザインが使われるようになる。

「写本 いとも優雅なる中世の小宇宙」展

時祷書・暦も多く作成された。月日に対してキリストの生涯における事蹟や聖人の業績が記載され、いつ・どのような祈りを捧げればいいか分かるようになっている。また、月の満ち欠けのサイクルを示すゴールデンナンバーも記されていて、復活祭(春分の日の後の最初の満月の次の日曜日)の日時決定などに利用された。

「写本 いとも優雅なる中世の小宇宙」展

法令(教皇令)なども写本として流布した。また、貴族身分証明書なども作成されるようになった。そして、印刷技術が用いられるようになっても細密画などによる装飾は続けられていた。

「写本 いとも優雅なる中世の小宇宙」展

感想

私が装飾写本に興味を持ち始めたのはだいぶ前。映画「薔薇の名前」を観てからだろうか。それから内藤裕史氏の書物にも出会い、そしてそのコレクションを国立西洋美術館で観る機会も得られ、さらに興味が深まった。そして、今回の企画展はかなり見応えがあった。
単眼鏡が必要だろうと忘れずに持っていった。しかし、単眼鏡を使っても細部を見分けるのは大変。これを手作業で描いているんだから、どれだけ大変な作業だったのか驚いてしまう。修道院というと薄暗いイメージがあるが、そんな中で作業をしていたら修道士たちもすぐに視力が低下してしまいそう。いや、ご苦労様でした。こうやって美しい作品を現代の我々が楽しませてもらっているのは、そんな彼ら・彼女ら(修道女の写字生もいたらしいです)のお蔭です。

そんな装飾に目が行き易い写本だが、文章も読めるようになれたらいいなと今でも思っている。暇になったらラテン語再入門しますかね。今回も少しは何が書いてあるか読めるかトライしてみたが、ラテン語云々以前に、書体が独特すぎて(いや、当時はそれが普通だったのだろうが…)「e」なのか「c」なのかも分からなかった。もう、「v」も「m」も「n」も一緒に見えてしまう。これ、当時の人はちゃんと読めたのだろうか。じっくり読み取ろうとすると一瞬でゲシュタルト崩壊してくる。

さてさて、今回の企画展では内藤コレクションってやっぱり凄いんだなと再認識しました。これを個人で収集したかと思うと、その執念には驚くばかり。本当に写本に惚れ込んでいたんだなと思います。そんなコレクションを美術館に寄贈してくれて感謝しかないです。そうでもなければこれだけの作品を一度に観ることなんてできないでしょうから。

今回も楽しませてもらいました。でも、単眼鏡でじっくり観て回ったので二時間はかかってしまった。いやぁ、疲れました。観に行くときはかなり気合いを入れて、覚悟を持って臨んでください。

美術展情報

  • 会期 : 2024/6/11(Tue) – 8/25(Sun)
  • 開館時間 : 09:30 – 17:30 金曜・土曜日は 09:30 – 20:00
  • 休館日 : 月曜日、年末年始(12/28 – 1/1)
  • 料金 : 一般 1,700円、 大学生 1,300円、高校生 1,000円 中学生以下 無料
  • 公式サイト :内藤コレクション 写本 — いとも優雅なる中世の小宇宙|国立西洋美術館
  • 巡回先 : 札幌芸術の森美術館 2024/9/7(Sat) – 9/29(Sun)
  • 図録 : 「文字と絵の小宇宙 国立西洋美術館所蔵 内藤コレクション写本リーフ作品選」 2,300円(税込)
  • 参考書

コメント

  1. 中野 潤子 より:

    美しい写本ですね。ロンドンの大英図書館ではじめてパピルスなる物を見ました。大きな一冊の本の持つ力に圧倒されたものです。本は美術品ですね。2時間かけての観賞お疲れさまでした。でも心地よい疲労感でしょうね。札幌にも巡回してくるのですね。貴重な機会なのでぜひ行ってみたいです。

    • bunjin より:

      鑑賞には単眼鏡もしくはルーペが必須だと思います。お忘れなく!