東京ミッドタウンにあるサントリー美術館で「没後120年 エミール・ガレ:憧憬のパリ」展を観てきました。
この企画展では写真撮影OKです。ただし、会場に掲載されている注意事項に従ってください。
また、10:00~11:00は撮影・会話禁止の「静寂鑑賞時間」となっていますので、こちらも注意願います。
展示内容
公式サイトの説明によると
ガレの没後120年を記念する本展覧会では、ガレの地位を築いたパリとの関係に焦点を当て、彼の創造性の展開を顧みます。フランスのパリ装飾美術館から万博出品作をはじめとした伝来の明らかな優品が多数出品されるほか、近年サントリー美術館に収蔵されたパリでガレの代理店を営んだデグペルス家伝来資料を初公開します。
とのこと。
改めてエミール・ガレについて書くと、エミール・ガレ(1846-1904)は、19世紀末フランスのアール・ヌーヴォーを代表するガラス工芸家。。植物や昆虫など自然をモチーフにした、繊細で優美なガラス作品で知られています。ガレは、ガラスに多彩な技法と装飾を凝らし、生きた植物や昆虫を閉じ込めたかのような作品を生み出しました。また、詩や文学を愛し、作品に詩的なメッセージや象徴性を込めたことも特徴です。
展示構成は以下の通り。
- プロローグ 1867年はじめてのパリ万博、若かりしガレの面影
- 第1章 ガレの国際デビュー、1878年パリ万博から1884年第8回装飾美術中央連合展へ
- 第2章 1889年パリ万博、輝かしき名声
- 第3章 1900年、世紀のパリ万博
- エピローグ 栄光の彼方に
ガレは父が経営している高級ガラス・陶磁器の製造卸販売業を引き継ぐ形でこの業界に入っていく。そして、パリで行われた万博に作品を出品し、名声を勝ち取っていった。
その始まりは1867年のパリ万博。父を手伝ってパリに滞在し、作品を作っていった。
これはそんな時期の作品で、唐草模様のコンポート。

1877年にガレは父から会社の経営を受け継ぎ、翌年1878年のパリ万博のガラス部門で銅賞を受賞し、世界デビューを果たす。
ジャポニスムのブームに乗って彼の作品には花鳥風月をモチーフにしたものが多く、また参考にするために日本の作品を多く収集していた。
例えば、備前焼の獅子頭をモチーフにした火入れ(写真左側)に似せてガラス作品を制作している。

アザミをモチーフにした花器。

「第8回装飾美術中央連合展ガラス部門および陶器部門審査委員会宛解説書」
自身の作品について、使った技法や作品の特徴・魅力などを書き記している。このような書類が残っているため、ガレがどのような技法を駆使しして作品製作を行っていたかより詳しく知ることができる。

ガレは作品の盗用を防ぐため、デザインを当局へ意匠登録している。この黄水仙をモチーフにした花器もその一つ。

その後も何回かのパリ万博を経験し、ガレの作品はその技術も進化を続け、さらには悲しみや生と死、闇、仄暗さなどを表現し、心象風景を表した深いテーマ性を帯びていく。
象嵌の要領で別に形づくっておいた花のパーツを貼り付ける「マルケトリ」技法や、エングレービング技法(ガラスを研磨し模様を作る技法)で作られた、おだまきをモチーフにした花器。

モチーフは花鳥風月に留まらない。野菜もその一つ。
茄子型の花器。描かれているのも茄子の花。「マルケトリ」技法で作られている。細い口の部分は宙吹きによる。

森林をイメージした花器。タイトルは「風景」。胴体はグラデーションをなす複数の色のガラスが層を成している。また、写真では分かりにくいが「マルケトリ」技法によって家屋も描かれている。
ガレの死生観を表していると言われているが、暗い森の底から樹幹の先は明るい天へと続いているようだ。

ガレは家具も手がけている。アールヌーボー調のデザインで、紋様は象嵌の技法で作られている。

ガレは1904年、白血病によってこの世を去った。晩年は仕事での成功の裏で、社会問題との関わりから心労を重ね、故郷のナンシーで反感を買うなどし、精神的にダメージを受けていた。そんな中で作られた蜻蛉をモチーフにした杯。力尽き、落ちていく蜻蛉の姿は彼自身を表しているのだろうか。

感想
バブルな時代、私の父も景気が良く、我が家にもガレの作品があった。壺や電気スタンドだったんだが、こんな感じのだったかな。今はもう手放してしまったけど。

そんな想い出もあり、エミール・ガレの作品には親しみがある。今回の企画展も楽しみにしていて、やっと観に行けた。
とは言え、実際に作品を手に取って観たことはあったものの、エミール・ガレその人についてそれほど知っている訳ではなかった。また、今回のように時系列でその作品をちゃんと観ていったこともなかった。
ジャポニスムの流れに乗って作られた作品群は日本人にも受け入れ易い。それ故、これだけ人気なのだろう。だが、単に花鳥風月をモチーフにした“日本風”と言うだけではなく、彼の深い想いが込められた作品ばかりだというのがよくわかった。初期の作品は透明でキラキラとした作品が多いのに、時代が進むにつれて色ガラス、それも黒や濃紺などの深みのある色合いが増えていく。彼は何を思ってこれらの作品をデザインしたのだろうか。茶道の茶器に感じる侘び寂びのような雰囲気を感じる。だが、彼の晩年は精神的にも、そして病気によって肉体的にも弱っていたようで、そんな精神状態がストレートに出ているのだろう。気をつけないとすぐに割れて壊れてしまう、ガラスという材質が持つ儚さは、ガレが用いるに相応しい題材だったのかも知れない。
そんな背景も理解した上でも、とにかく美しい作品だというのが素直な感想だ。古き良き時代のパリ、世紀末の華やかなパリ、それを体現するかのようなガレの作品群だった。
美術展情報
- 会期 : 2025/2/15(Sat) – 4/13(Sun)
- 開館時間 : 10:00 – 18:00 金曜日は20:00まで
- 休館日 : 火曜日
- 料金 : 一般 1,700円 、 学生 1,000円、 中学生以下 無料
- 公式サイト : 没後120年 エミール・ガレ:憧憬のパリ サントリー美術館
- 音声ガイド : 600円
- 図録 : 2,400円
- 参考書
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