恵比寿ガーデンプレイスにある東京都写真美術館で「狐の嫁いり」展を観てきました。
この企画展では写真撮影OKです。ただし、三脚・フラッシュNGなどの注意事項には従ってください。
展示内容
写真家 澤田知子氏の個展。公式サイトによると、
澤田知子は大学の卒業制作で実質的なデビュー作と言われている〈ID400〉(1998)で2000年度写真新世紀特別賞を受賞、2003年度第29回木村伊兵衛写真賞に続き、2004年にはNY国際写真センターThe Twentieth Annual ICP Infinity Award for Young Photographerに選出されるなど、デビューから現在に至るまで、国内外で高い評価を得ています。 本展は、澤田の原点となる《Untitled》(1996)から最新作《Reflection》(2020)までの代表作を網羅し、澤田の25年間にわたる旺盛な制作活動を概観する、公立美術館における初大規模個展です。
東京都写真美術館
とのこと。
広い展示スペースの壁をずらっと埋めて作品が展示されている。
こちらは学生時代に制作した作品。スーパーマーケットに設置されていた旧式の証明写真機で自分を撮ったもの。その機械はアナログ式で、印画紙も絹目。今はもう使われていない機種だ。化粧やウィッグを取っ替え引っ替えして撮影。もちろん、全てが“同一人物”の写真なのだが、大勢の人びとの写真を見ているようにも見えてくる。まさに、狐につままれたような印象を受ける。
容姿でその人が誰なのかを見分ける訳だが、だんだんにその自信がなくなってくる。
いわゆる、やまんばメイクやロリータファッションで“変身”している作者。これらは誰かを演じているのか、誰か他人になりたいという願望なのか。それとも、見た目ではなく、内面を見て自分自身を判断してくれ、と言うメッセージなのか。
ヘアメイクのカタログのような、夜の店の看板のような。
作者の最新作。ついには顔を見せることなく、後ろ姿、いや、後頭部だけの“ポートレイト”だ。人のアイデンティティはどこにあるのか。人は何を持ってその人が誰かを判断するのか。作者に試されているようだ。
世界各国のケチャップ・マスタードのポートレイト。ボトルの形状やラベルのデザインは全く同じなのだが、各国の言葉で「ケチャップ」「マスタード」と書かれている。
感想
証明写真機で写した写真を効果的に使っていた映画「アメリ」のシーンを思い出した。あの映画では、捨てられた他人の失敗写真を集めるという趣味を持った男に、主人公アメリが変装して写した写真を通してメッセージを送る、ってな話だったかと思う。
一方、澤田知子氏の作品は誰に向けてのメッセージなのだろうか。「自分を見て欲しい」というナルシスティックな願望という訳ではないだろう。「本物の自分がどれか分かる?」との謎かけでもないようだ。最初、間違い探しの要領で、どれか一枚だけは他人の写真が混じっているんじゃないかと思ってしまったが、もちろん、そんなおふざけもない。タイトルにある「狐の嫁いり」のように、ゆらゆらと遠くに見えてつかみ所がなく、近寄るとふっと消えてしまう(この場合は「ああ、やっぱり作者本人だ」となるのだが)ような感じだ。
それにしても、これだけ自分の顔に向かい合っての作品作りってメンタル的に大変そう。写真を一枚撮られるにも、どう写っているのか、この表情だと人からどう思われるだろうかと心配になってしまう。そんなことを数百回、数千回、数万回もしなきゃならないんだから。
「sign」のケチャップ・マスタードのボトルの写真群、ほとんど同じに見えるのに、書かれている言葉の言語が違う。国家やら民族やら人種で争っている世界だが、「結局“人”なんだから、みんな似たようなものだよ」と言われている気がした。
多様性を重んじるとは、単に違いだけに注目するのではなく、基本は同じなんだから、多少のバリエーションがあっても似たようなものなんだ、ということなんじゃないかとこの作品を観ていて思った次第。
面白い写真展でした。
写真展情報
- 会期:2021/03/02 (Tue) – 2021/05/09 (Sun)
- 開館時間 : 10:00 – 18:00
- 休館日: 月曜日 (5/3は開館)
- 料金 : 一般700円 学生 500円 中高生・65歳以上 350円 小学生以下および都内在住・在学の中学生は無料
- 公式サイト : 東京都写真美術館
- 図録 : 2,860円(税込)
コメント
インタビューを見せてもらいました。うなっています。
パンデミックでこういうオンラインでの「サービス」が増えたのは不幸中の幸いと言うことなのでしょう。
何とも面白い試み・・・、と思いましたが、
インタビューを見て、とても不思議な感じのする方だな、と。
実際にその沢山の顔に囲まれたら、チョット夜、
思い出して眠れないかも? とも・・・。(^^;
私の故郷では、GW中に『狐の嫁入り行列』というお祭りがあります。
コロナのせいで、昨年も今年も中止になってしまいましたが。
広い展示会場の壁一面にずらっと並んでいますから、かなりの迫力ですよ。
私はじっくりと見入ってしまいました。いや、逆に魅入られたのかな。