三菱一号館美術館で開催中の「イスラエル博物館所蔵 印象派・光の系譜」展のブロガー・特別内覧会に参加してきました。久しぶりに安井学芸員と Tak さんによるギャラリートークもありました。以下、トーク内容も織り交ぜて書きます。
展示内容
The Israel Museum, Jerusalem(イスラエル博物館)所蔵の作品と、国内の美術館から借用したモネの睡蓮による展示となっています。
イスラエル博物館は1965年に開館し、当初は寄贈品をベースにしたコレクションとなっていて、現在は50万点を収蔵しているとのこと。かのロスチャイルド家からの寄贈品などもある。故に、様々な作品が集められているのが特徴と言える。今回の“印象派”作品群も、「これは果たして印象派と分類していいのか?」と思えるものも少なくない(ようだ)。
70点ほどの展示品のほとんど(59点)が初来日作品というのも本企画展の特徴となっていて、馴染みの薄い画家の作品も多々ある。しかし、今回の企画展を期に、日本でもプチブームが起こるかもしれないので要注意?!
展示構成は以下の通り。
- CHAPTER.01 水の風景と反映
- CHAPTER.02 自然と人のいる風景
- CHAPTER.03 都市の情景
- CHAPTER.04 人物と静物
モネの睡蓮に見られるように、水面にきらめく光の描写は印象派(とその前後)作品によく用いられる特徴と言える。
コローは川岸で釣り人や、川を行き交う船を描いている。パリをはじめ、都市化が進んでいったフランスだが、印象派の画家たちはそんな中でも日常の風景として見られるプチ自然を好んだようだ。
ドービニは、中でも川を好んだ画家と言えよう。自前の船にアトリエを作ってしまい、川を行き来しながら風景を描いている。それ故、他の画家たちは岸から川の風景を描いているが、ドービニの視点は逆に“川の中”から岸を見ているのだ。それに気がつくと、何気ない川べりの風景も違って見えてくる。
ヴーダンの描く海辺は光がきらめいている。夕景もオレンジ色に染まった空と海とがグラデーションを作り、これから暗い夜がやってくるとは思えないようだ。
アルマン・ギヨマンの作品。説明書きによると、宝くじに当選したことで仕事を辞め、絵画制作に専念するようになったとか。何とも羨ましい。
そしてモネの睡蓮。陽の光を照らした水面は、揺らめく炎のようだ。眩しくて、肝心の睡蓮が霞んでしまいそう。
レッサー・ユリィ(Lesser Ury – Wikipedia)による1900年頃の作品。ポーランドに生まれ、のちにベルリンに移住。“ドイツ系印象派”画家の一人とのこと。
初めて知りました、この人のこと。そして、作品を観たのも初めて。印象派となっていますが、後期印象派もしくはポスト印象派というところなのでしょうか。学芸員さんの解説によると、筆のタッチが印象派の画家とは大きく異なるとのこと。ブラッシングの跡をはっきりと残す印象派の画家たちとは違って、ペインティングナイフで絵の具をベタ塗りしているのが特徴。
夕景のようでもあるけど、キラキラしてはいないだけでなく、明るくもなく、暗くもない。他の作品を観てきてふとこの作品を見ると、その明暗の違いだけでなんとも戸惑ってしまうくらい。なんとも気になってしまう作品。他にどんな作品を描いているのか観てみたくなった。
林の中を歩く人や、道行く人を描いたのはカミーユ・コロー。ただの風景画ではなく、そこに人が描かれていて、生活を感じさせてくれるのが印象派の作品。
ゴッホの作品が二点、並んで展示されている。プロヴァンスの農村を描いていて、色彩に関して色々と挑戦・研究している作品だそうだ。麦畑にポピーの花が咲いている左の絵は、緑の中に赤が点在している。右の絵では、収穫した麦を束ねて乾燥させている様子を、眩しいくらいの黄色で描いている。
学芸員さんの話では、これらの作品を描いたのは、ゴーギャンと共同生活を始める直前だとか。ゴーギャンの才能に圧倒される前の、「これから頑張るぞ!」という気合いに満ちた時代の作品とのことだ。
これらがゴーギャンの作品群。焔の踊りウパウパは、タヒチの伝統芸能。フランス政府が野蛮だといって禁止したことに抗議すべく描かれた作品だとか。
レッサー・ユリィ再び。「夜のポツダム広場」は、写真家ソール・ライターの作品のような雰囲気だ。舞台はニューヨークじゃなくて、ベルリンだけど。ますます、これは印象派の作品なのか?と思ってしまうが、カッコいいことだけは確かだ。
ルノワールの肖像画。右の男性は、揺らめく幻のよう。右手は形も怪しいほどにゆらゆら。それなのに、顔の表情だけはしっかりと描かれていて、アイデンティティを強烈に印象づけている。
これらはルノワールの静物画。
クールベの、りんごを描いた静物画。なんか、スケール感がおかしい気もするけど。ハロウィーンのお化けカボチャ? いや、りんごです。
感想
イスラエル博物館、ユニークなコレクションが揃っているんですね。初めましての作品・画家さんが一杯。
とにかく、レッサー・ユリィさんが気に入りましたよ。印象派なのか、その流れを汲んでいるのかもよくわからないけど、なんともユニークな作風。フランスの画家たちとは違う、ジャーマンな雰囲気というのでしょうか、都会の哀愁漂う感じに惹かれてしまいましたよ。ユダヤ人だったと言うことで、イスラエル博物館に作品が集められているみたいですが、機会があったら他の作品も観てみたいものです。
そもそも、イスラエル博物館自体がすごい博物館だと言うことを、今回の企画展で初めて知りました。「死海文書」を所蔵していたり、イサム・ノグチが設計した庭園があったり。ロスチャイルドを初め、世界各地で成功した人たちからの寄贈品・お宝が集められた結果なのでしょう。知ってしまったからには「いつか行きたい場所」リストに加えずにはいられません。
説明はなかったと思うのですが、どういう経緯で三菱一号館美術館さんはこの企画展をすることになったんでしょうかね。イスラエル博物館との繋がりが何かあったのかな。「XXX美術館展」は他の美術館でもよくある企画ですが、三菱一号館美術館の場合は目の付け所が違う。同じ印象派の作品展でも、ここまで初来日作品目白押しというのは他にないでしょう。
とにかく、今回観ておかないと、イスラエルまで行かない限り、次に観られる機会はいつになるか分からないでしょう。必見の企画展です。
美術展情報
- 会期 : 2021/10/15(Fri) – 2022/1/16(Sun)
- 開館時間 : 10:00 – 18:00 , 金曜日・第二水曜日・会期の最終平日は21:00まで
- 休館日 : 月曜日、12/31, 1/1 (10/25, 11/29, 12/27, 1/3, 1/10は開館)
- 料金 : 一般 1,900円、 高校・大学生 1,000円、 小中学生 無料
- 公式サイト : イスラエル博物館所蔵 印象派・光の系譜 ― モネ、ルノワール、ゴッホ、ゴーガン|三菱一号館美術館(東京・丸の内)
- 音声ガイド:貸出料金 600円
- 参考書
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